人は何故2chまとめサイトの印象操作に釣られてしまうのか?

先日「ニュー速VIPブログのエロゲ記事はコメントの切り貼りがひどいwww」という記事を書いたのですが、これはニュー速VIPブログの記事に対してツッコミをいれたかったのではなく、その記事に対して「あー、そうだよね」と、肯定的に反応した人達に対して「おいおい」とツッコミをいれるのが主目的でした。なので私の意図とはかけ離れた方向に物事が広がっていってしまい、ちょっとばかし驚いています(笑)。

まぁ、この件に限った話ではないのですが、人は何故2chまとめサイトの印象操作に釣られてしまうのでしょうか?この疑問に対する答えになりそうな事が書かれた本がありましたので、ここから2つの実験を取り上げてみたいと思います。

人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動

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ソロモン・アッシュの実験

2chまとめサイトのキモは「編集者の意図に従ってレスという他者のコメント(意見)をスレから抽出、再構成する事によって『みんなはこう思ってみたいだよ』という印象を読者に与える事が出来る」という点にあると思います。そしてこのソロモン・アッシュの実験は「人は他人の意見にどのくらい同調しやすいのか?」について研究したものです。

実験内容

【参照リンク】 Solomon Asch experiment (1958) A study of conformity

この実験の詳細に関しては上記リンクを参照して頂くとして、概要はこうです。実験の参加者は7人。しかし実際の被験者は1人で、他の6人は実験者の仲間であり、その事は被験者に分からないようにされています。そして実験には2枚のカードを使い、カードの一方には垂直の線が1本だけ書かれており、他方には様々な長さの線が3本書かれています。

実験者は参加者に両方のカードを見せたあと、3本の線のうちどれがもう1枚のカードの1本の線と同じ長さかを答えさせます(この場合の答えは「A」)。このやり取りを何度か繰り返すのですが、その際実験者は何回か仲間と共謀し、被験者以外の参加者全員が「間違った線を答える」という状況を作り出します。そしてそのとき被験者はどのような反応をするかを調べる。というものです。

結果及び考察

で、その結果はどうだったか?対照実験として1人だけでテストを受けたときは、答えを間違える被験者は皆無だったのに対して、他の参加者が異口同音に間違った答えを言うのを聞いた被験者たちは、それに従ってしまうことが多く、多数派と同じ間違った答えを返すようになってしまいます。この結果を受けてアッシュは、

われわれの社会では順応しようという性向はきわめて強く、かなり知的で善良な若者たちが白を黒と称するのをいとわないことが明らかになったのは、由々しき問題である。得られた結果は、現在の教育法や、われわれの行為の指針となっている価値観に疑問を提起している。

と記しています。どうやら人は容易に「付和雷同」してしまうようなのです。

グレゴリー・バーンズの実験

上述したアッシュの実験をさらに一歩前進させた実験になります。

実験内容

バーンズらはMRIを利用して、アッシュの実験と同じような状況に直面した被験者の脳の活動を精査しました。彼らは被験者たちに明らかに異なる三次元の形状を表した2つの図を見せ、図を見たあとで被験者たちに、描かれた2つの物体が本当に別のものなのか、それとも同じ物体を別の角度から眺めたものなのかを答えさせます。そしてアッシュの実験と同じく、被験者のふりをする実験者の仲間を用意し、彼らが時折間違った答えを返すという状況になった場合、被験者の脳がどのような活動をするのかを調べる。というものです。

結果及び考察

アッシュの実験と同じく1人で答えを出すとき、被験者はつねに正解しましたが、被験者を装った実験者の仲間が口を出すと、被験者はほぼ10回に4回の割合で屈してしまい、自分の考えを放棄し、多数に従ってしまいます。そして集団の意見に組みしないという難題に直面したとき、被験者たちの脳はどう反応したのか?この本には、

もし被験者たちが意識して決断しようとしている――つまりアッシュの実験で言えば、線を正しく認識しているのに大勢に従おうとしている――なら、一般的には計画の立案や問題解決に関与する部位である前脳領域で活発な活動が認められるはずだと考えられる。ところが、これはバーンスらが得た結果とは合致しない。それどころか、被験者が自身の考えに反して大多数に従うとき、脳の活動は、空間的広がりの知覚と認識をつかさどる部位である右頭頂間溝でもっとも活発になった。この事実をもとにすると、個々の被験者は慎重に考えたうえで大勢に従うという決断を下そうとしていただけでなく、物体に対してまさに別の見方をしようとしていたことがうかがわれる。他の人たちが告げた言葉が文字どおり見方に影響を及ぼしたのだ。論文の著者たちが述べているように、「社会的状況が個々の人々の世界に対する認識を変えてしまう」のである。

と記されています。つまり人の脳には多数の意見に従って自らの認識を変えてしまう傾向があるようです。

まとめ

この2つの実験を受けてこの本ではこう結ばれています。

これらの実験は、模倣行動のなかには、その起源がまさにきわめて古いものがあることを示唆する。そうした模倣は無意識のうちに反射的にとる本能的な行動であり、生物としてのわれわれの構造にあらかじめ組み込まれているように思われる。

従って「人は何故2chまとめサイトの印象操作に釣られてしまうのか?」という問いに対する回答は「人間の脳には大勢の意見に従ってしまうという仕組みが組み込まれているから」という事になりました。おお、2chまとめサイトに対する人の反応を調べてみたら、人間の進化の歴史的なところにまで行ってしまいましたよ。そしてこれが理系的な結論だとすれば、文系的にはこちらの言葉で用が足りると思います(笑)。

ふつうの人には独自の意見などない。詳細な検討と熟慮を重ねて自分なりの見解をまとめることには関心がなく、ひたすら周りがどう考えているのかを知りたくてたまらず、猿まね的にその見解を取り入れるだけである。
―― マーク・トウェイン